勤怠管理が企業の義務になる?衆議院の解散で先延ばしされた働き方改革関連法案の審議

2017年の衆議院解散により審議が見送られていた働き方改革関連法案ですが、2018年に入りこれらの法案の施行時期が明らかになってきました。今回は、今後企業が求められる勤怠管理に関する対応を見ていきましょう。

労基法改正

 

政府の対応からも分かる労働時間把握の重要性

これまでも長時間労働は問題視されていましたが、度重なる過労死や自殺の問題を受け、政府も『働き方改革』に力を入れています。2017年は働き方改革に関連した労働基準法の改正に注目が集まりましたが、衆議院の解散によりその審議は先送りされることに。

 

しかし、2018年に審議が再開され施行時期も明らかになってきた今、企業はより確実な対応を求められることは明白です。

 

ということで、今回は今後改正予定の法案のうちから勤怠管理に影響がある3つについて見ていきます。

 

勤怠管理に影響のある法案3つ

では、どのような法案が勤怠管理に影響があるかというと、

 

  1. 時間外労働の上限規制
  2. 高度プロフェッショナル制度
  3. 労働時間把握の義務化

 

の3つです。最初の2つは労働基準法改正、3つ目は労働安全衛生法試行規則の改正ですね。これらが追加になることで、勤怠管理にはどのような影響があるのかそれぞれ考えてみましょう。

 

1.時間外労働の上限規制

これまで企業は従業員と『36(サブロク)協定』を結べば、労働基準法で定められている残業時間(月45時間、年間360時間)であれば法定労働時間を超えての労働が可能でした。また、繁忙期など特別な事情がある場合は『特別条項付き36協定』を結ぶことにより限度時間を超えて残業時間を延長できる仕組みがあります。

 

ただ、現行の特別条項付き36協定では特に上限が決められていないため、これが抜け道となり、長時間労働が常習化している企業が多くあります。

 

今回の労基法改正では、この抜け道をなくすために罰則付きの時間外労働の上限規制導入を計画しており、以下の制限が加わる予定です。

特例として、臨時的な特別の事情がある場合として、労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても、上回ることができない時間外労働時間を年 720 時間(=月平均 60 時間)とする。かつ、年 720 時間以内において、一時 的に事務量が増加する場合について、最低限、上回ることのできない上限を 設ける。

 この上限について、

①2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均で、 いずれにおいても、休日労働を含んで、80 時間以内を満たさなければならないとする。

②単月では、休日労働を含んで 100 時間未満を満たさなければならないとする。

③加えて、時間外労働の限度の原則は、月 45 時間、かつ、 年 360 時間であることに鑑み、これを上回る特例の適用は、年半分を上回ら ないよう、年 6 回を上限とする。

引用元:働き方改革実行計画

つまり、忙しい時期は臨時的に特別条項付き36協定を結ぶことで、1年に6回までは1ヶ月あたり45時間を超えての残業は可能ですが、最大でも1ヶ月で100時間未満であること、さらに2ヶ月~6ヶ月で平均したときに80時間以内になっていないといけないという条件が加わり、これを守らないと罰則を科せられるのです。

 

勤怠管理システムの多くは設定された残業時間の基準を超えた場合にアラートを出す機能を搭載していますが、月単位の合計で算出するものが大半で、直近の月(2ヶ月、3ヶ月)単位でのアラートに対応しているものは少ないです。

 

今後、残業時間の上限に対する成約が厳しくなるのであれば、合計だけでなく2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月単位で平均を算出し、その期間での残業時間平均が80時間に収まっていることを確認できる仕組みが必要となるでしょう

 

2.高度プロフェッショナル制度

残業時間の制約が厳しくなる一方で、『残業代ゼロ法案』と揶揄される『高度プロフェッショナル制度』も施行予定となっています。これは、一部の専門的な職種に限り、年収1075万円以上(正確には平均給与年収の3倍以上)の社員は、労働時間の管理から除外し、一定の報酬を払うという裁量労働制を促進するための法案です。

 

一定の成果を上げれば、労働時間の制約を受けずに早く帰宅できるなどのメリットもありますが、それと同時に、成果をあげるために残業が不可欠であれば、賃金以上の労働が発生する可能性も内在しています。そのため、残業が横行するのではという懸念があり、職務の範囲に関する合意はもちろんのこと、健康を管理するための労働条件(休日の確保、勤務間インターバル等)を盛り込む必要性が検討されています。

 

つまり、労働時間の管理は不要といいながらも、働きすぎを未然に防ぐためにも雇用側で勤務時間や休暇の取得状況は把握する必要性があるということです。これまでにはなかった雇用形態となるため、現行の勤怠管理システムでは対応しきれないことが予想されこの法案が試行による既存システムの改修は必須となるでしょう。

 

3.労働時間把握の義務化

労基法ではなく、労働安全衛生法施行規則もまた改正される方針です。これまでも企業は従業員の労働時間を把握する義務を負っていることは暗黙の了解でしたが、法律上はそれを強制する明確な規制はありませんでした。

 

これが改正により、労働時間を適正に把握していなければ罰則が発生することになるというのです。この『適正に把握』というのがどのレベルなのかというと、2017年1月末に策定された『労働時間把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』には以下のように記載されており、客観的な記録が求められます。

タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として 確認し、適正に記録すること

引用元:労働時間把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

ガイドラインではやむを得ない場合は自己申告制も可としていますが、実際の法案ではどのようになるかは不明確です。ただ、当初は省令で規定する予定だったものが、法律に格上げされたことからもこの法案の重要性は高いことが伺え、企業は今まで以上に従業員の労働時間把握に力を入れる必要があると言えるでしょう

 

法改正を見越したシステム検討は早めのうちに

今回ご紹介した法改正は、2018年4月現在審議中の内容ですが、施行時期の見通しはほぼ立ちつつあります。

 

働き方改革の関連法案は今回ご紹介した3つ以外にも、

  • 有給休暇取得の義務化
  • 勤務間インターバル制度
  • 割増賃金率の猶予措置撤廃
  • 産業医の機能強化
  • 同一労働同一賃金

と盛りだくさん。

 

あと1~2年の猶予はありますが、社内の規則を見直し既存システムの改修計画を立てる、新しいシステムを導入する等の対応には時間がかかります。

 

すでに法案の施行時期は明らかになっているため、法改正を見越した既存システムの対応はどうなるのかをシステム会社に問い合わせる、新しいシステムの検討を進めるということをすぐにでも始めましょう。

 

 

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